2021年03月29日

型板ガラス「しきし」の謎

街で型板(かたいた)ガラスを見かけると撮影している。型板ガラスにはさまざまな柄があり、見ていて楽しい。

日本の型板ガラスは旭硝子、セントラル硝子、日本板硝子の3社が生産していた。ほとんどの商品は昭和中期にリリースされたものだ。当時は各社が競って新しい模様の型板ガラスをつくり、「新柄戦争」と呼ばれるほどの激しい販売競争を繰り広げたそうだ。

その中に「しきし(色紙)」という名前の型板ガラスがある。

型板ガラスを撮り始めて数年経った頃、あることに気づいた。よく見ると、「しきし」には2種類の柄があるのだ。

型板ガラスのファンはまあまあ多いはずだが、このことを指摘した記述はネット上には見あたらない。

まずこちらを「しきしA」と呼ぼう。よく見てほしい。

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四角の中に細い線が刻まれているのが分かるだろうか。ハッチングである。

次にこちら。「しきしB」。

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Aと違って、四角の中はハッチングではなく細かな地紋で埋められている。あきらかに別の柄だ。

『産業技術史資料データベース』によると、「しきし」は旭硝子とセントラル硝子の2社が販売していたようだ。だから「2社がつくっていたこと」じたいは周知の事実なのだが、2種類のデザインが存在しているとはどこにも書かれていない。

どちらかが旭硝子製で、どちらかがセントラル硝子製なのだろうか。もしそうだとして、どっちがどっちなのだろう。

『産業技術史資料データベース』の記述では、「しきし」の製造年は1952年(昭和27年)、メーカーは「旭硝子、セントラル硝子」と併記されているため、あたかもその年に2社が同時にリリースしたかのように読める。はたしてそうなのだろうか。

そこで各社の歴史をひもといてみた。

旭硝子の社史によれば、「色紙」が発売されたのは1952年(昭和27年)。発売年に関しては『産業技術史資料データベース』の記述は正しい。しかし商品名の表記が違う。旭硝子の社史には、ひらがなではなく漢字で「色紙」と記されている。

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『社史』(旭硝子株式会社、1967年)より

次にセントラル硝子の社史によると、同社が初めてオリジナル柄をリリースしたのは1963年(昭和38年)のことで、そもそも上記1952年(昭和27年)にはまだ型板ガラスの製造を始めていない。

そして、その1963年(昭和38年)に初めてリリースしたオリジナル柄第1号が、まさに「しきし」だった。こちらはひらがなで「しきし」と記されている。

旭硝子は「色紙」(1952年)、セントラル硝子は「しきし」(1963年)というわけだ。さて、では上掲2種の、どっちがどっちの柄なのだろうか。

それを解く手がかりは、別の型板ガラスにある。それが旭硝子の「このは」だ。

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上の左右2枚と、右下の柄が「このは」

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「このは」は旭硝子が1962年(昭和37年)に発売した新柄で、日本の型板ガラス史上、初めて「ハッチング」を用いたデザインだった。以下、同社の社史より引用。

当社は昭和37年の秋に、従来の型模様の常識を破った、きらびやかなセンスのある「このは」を発売した。この画期的な模様が市場の共鳴を呼び、市場のガラス模様に対する観念が一変し、爆発的な売行きを示した。

また、『産業技術史資料データベース』はこのように解説している。

微細な線のハッチングという、当時としては極めて高度な技術を試みたことにより、光の方向で表情が変わるという新たな機能を実現した。その新しさと、当時普及してきたテレビを媒体に宣伝したことが功を奏し爆発的にヒットした。

セントラル硝子が「しきし」を発売するのは、旭硝子の「このは」の翌年のことである。

ここからこんな想像ができる。セントラル硝子は、旭硝子の「色紙」のデザインを借りつつ、前年にヒットした「このは」に用いられたハッチングを応用することで、自社オリジナルの「しきし」として発売したのではないだろうか。

つまり、ハッチング柄のほうがセントラル硝子製だ。

セントラル硝子は「しきし」発売の2年後、1965年(昭和40年)に「かるた」という新柄をリリースする。これは「しきし」を大型にした模様で、こちらにも同じようにハッチングが施されていた。

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セントラル硝子「かるた」

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「かるた」の拡大

『産業技術史資料データベース』は「かるた」についてこう解説している。

大柄な構成だが、その一つ一つに細かな線をハッチングすることにより、光の方向によって輝きがかわる工夫をしている。この細線の手法は1962年の「このは」で初めて試みられた手法である。

セントラル硝子の「しきし」「かるた」にハッチングが施されていること、そして旭硝子が「色紙」を発売した1952年(昭和27年)にはまだハッチング技術が確立されていなかったことから、上掲のAがセントラル硝子製、Bが旭硝子製であると推測できる。


※いずれの型板ガラスも現在はもう生産されていません。ご自宅にあるという方は、どうぞだいじにしてください。


【参考文献】
『産業技術史資料データベース』(居住技術研究所、社団法人日本建築学会)
『社史』(旭硝子株式会社、1967年)
『セントラル硝子三十五年史』(セントラル硝子株式会社、1972年)




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2021年03月18日

石灰世界

以前、仕事である石灰工場を取材したときの写真です。まっ白な世界に迷い込み、取材を忘れてしばらく見とれてしまいました。

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この会社は山で石灰石を採掘し、コンベアで石を運び、破砕し、石灰製品を生産しています。舞い散った石灰の粉が降り積もって、このような白い世界ができあがるんですね。

特別にブログへの掲載許可をいただきました。





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2021年03月15日

表町アルバビル旧館のオールド送水口

以前、岡山県産業会館のオールド送水口を紹介しましたが、岡山市内にはもう一つ、貴重なオールド送水口があります。それが表町アルバビル旧館(岡山市北区、1961年竣工)のオールド送水口。南面にあります。

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露出Y型と呼ばれるタイプです。

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露出Y型そのものはまだ多く現存してるんですが、この送水口が「村上製作所」製の「差込式」であるという点で珍しいのです。

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村上製を示すMマーク。

送水口のホース接続口には「ねじ式」と「差込式」の2種類があるのですが、村上製作所製のオールド送水口は「ねじ式」が多く、「差込式」は出荷数が少ないのです。だから現存数も少ない。

送水口のホース接続口は、かつて東京都内は「ねじ式」、それ以外の地域は「差込式」と定められていました。村上製作所は東京のメーカーなので、「ねじ式」の出荷数のほうが多かったわけです。

そしてときどきはこうして地方へ販売することもあり、当然その場合は「差込式」を出荷していたということですね。

「ねじ式」は下のようなタイプ。接続口の横に突起が出ているのが分かるでしょうか。この突起があるのがねじ式。

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冒頭のアルバビルの送水口をもう一度見てみてください。突起がありませんよね。

今回の記事を書くにあたって、村上製作所の村上善一社長より製品の歴史について詳しくご示教いただきました。ありがとうございました。



余談ですが、表町アルバビル旧館にはもう一つ、珍しい設備が残っています。ダストシュートのように上の階から投函できるシュート式ポストです。

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これは2階の廊下にある投函口。さらに上(3階以上)からもつながってるのが分かりますね。

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ここから投函すると、

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1階に到達。

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集荷は2008年に廃止されています。


【関連記事】
>>送水口博物館に行ってきたよ





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2021年03月13日

さよなら岡山市民会館

岡山市が、岡山市民会館(1963年/昭和38年竣工)を取り壊す方針を表明したというニュースが流れてきました。新市民会館「岡山芸術創造劇場」の開館(2023年夏頃予定)に伴う判断だそうです。

下記は以前、岡山市民会館を見学したときの記事。

>>岡山市民会館のかっこいい場所

このとき掲載しなかった写真があるので、以下にご紹介します。取り壊しはまだ何年も先になるのだろうと思いますが、それまでにゆっくりお別れしましょう。

岡山市民会館は「おかやまの歴史的土木・近現代建築資産」にも紹介されている建物なので、もったいないですね。

>>歴史的土木・近現代建築資産一覧|岡山市民会館

他の自治体では、取り壊しを予定していた建物が、その後、一転して保存されることになったという例もあります。

大好きなバンド、ザ・クロマニヨンズのライブをここで何度も見ました。閉館までにもう一回くらい、岡山市民会館でライブを見たいなあ。

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設計は佐藤武夫。音響学と建築をつなぐ建築音響学の先駆者で、日本建築学会の会長も務めました。

下記は南の立面図ですが、設計段階では北西に時計付きの塔を建てる計画だったことが分かります。

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しかし実際には下のように、塔は途中で途切れており、国旗掲揚ポールのみが高く伸びています。

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なぜ計画を変更して塔をやめたんでしょうね。




posted by pictist at 20:08| 都市鑑賞

2021年02月24日

猫よけペットボトルの起源2

The origin of the water bottle method that keeps dogs/cats away.

2015年に「猫よけペットボトルの起源」という記事を書いた。猫や犬を遠ざけるために水の入ったプラスチック・ボトルを置く風習の起源を調べた記録だ。記事にも書いたように、当時、日本語でいくら調べても手がかりがつかめなかったので、英語であれこれと検索してやっと辿り着いたのが、ニュージーランドの園芸家イーオン・スカロウだった。

「猫よけペットボトルの起源」は多くの人に読まれ、ネットでも話題になり、2020年には日本のテレビ番組で取り上げられた(番組は未見だがスカロウ氏とエイプリルフールの件が紹介されたようなので、おそらく番組制作者が拙ブログをご覧になったのだろう)。

また、執筆当時は当然、イーオン・スカロウの日本語Wikipediaページなどなかったのだが、いつのまにかどなたかがつくってくださっている。

ところが。

その後もしつこく調査を続けた結果、さらなる新事実をつかむことができた。それにより、単純に「イーオン・スカロウ発祥」とは言えなくなっている。

また、2015年当時の私の調査記事は、追記に追記を重ねているので読みにくい。そこで、その後の調べで得た情報を加え、猫よけボトル(犬よけボトル)の起源と伝播の歴史をあらためて一からまとめた。最新版の「歴史調査報告」としてここに記す。

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plastic bottles(PET bottles)filled with water/Japan,2016


【ある園芸家のエイプリルフール・ジョーク】

おそらく1980年代の中頃、ある年の4月1日(※1)。ニュージーランドの園芸家イーオン・スカロウ(Eion Scarrow,1931〜2013)は、地元のラジオ局1ZB(現在のNewstalk ZB オークランド支局)の番組出演中にこう言った。

「水を入れたプラスチック・ボトルを芝生に置いておくと、犬が近寄らなくなりますよ。野良犬のフンに困っている方は試してみてください」

思いつきで口走ったエイプリルフール・ジョークだった。自分がなぜそんなことを考えついたのか分からない。なんの根拠もないアイデアだ。信じる人がいるとも思わなかった。

しかしラジオを聴いていた大勢の人がこの話を信じ、試した。

スカロウは自身のテレビ番組を持ち、著作も多数ある有名な園芸家だった。ガーデニング・グル(guru=達人/指導者)とも呼ばれていた。だからラジオを聴いた人が信用してしまったのだろう。しかしこのあとに起こった現象は、それだけでは説明がつかない。

この新しいおまじないはラジオを聴いていなかった人にも広まっていった。人から人へ伝わるうちに話の出所は忘れられた。もはやガーデニング・グルは関係なくなっていた。「隣人がやっていたから」という理由だけで、人々は「ボトル置き」を試した。そしてこの方法は、あっというまにニュージーランド全土に伝播した。

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イーオン・スカロウ(園芸番組『Dig This』1979年放映の映像より)(c)NZ On Screen


1988年。米国の民俗学者ジャン・ハロルド・ブルンヴァンは、1月から5月にかけてニュージーランドに滞在した。彼はこの地で、米国では(少なくとも自身の住むソルトレイク・シティでは)見たことのない興味深い光景を目にする。

ブルンヴァンはその様子を「ニュージーランド(やそのほかの国)の芝生の手入れ」と題した新聞コラムで次のように綴っている(※2)。

ニュージーランドでどこへ行っても、きちんと手入れされた芝生のあちこちに、水の入った瓶(※3)が置かれているのが目についた。このことに関してわたしが質問した人はだれもが、それは芝生の上で犬が糞をするのを防ぐ確実な方法だと、誰かに聞いたのだとわたしに語った。
(中略)
瓶はおなじみの、一・二五リットル入りの清涼飲料水のプラスティック容器であった。時には、紙のラベルを貼られたままのものもあったが、きれいな瓶だけが用いられるようであった(※4)。
(中略)
わたしは、わたしが訪れたほとんど全てのニュージーランドの町で、水の入った瓶を見た。芝生の手入れは全国的な熱狂のように思われた。

このブルンヴァンのコラムは全米35紙の新聞に共同配信されていた。すると読者から3通だけ「同じものを見たことがある」という手紙が届いた。3通ともカリフォルニア州からの手紙だった。この「カリフォルニア」はまた後から出てくるので覚えておいてほしい。

以下、引用の続き。

(手紙の)一つは、水を入れたガラス瓶とプラスティック瓶は一九八三年と一九八四年に、サンディエゴで犬よけとして芝生の上で用いられた、と述べていた

手紙の二番目は、一九七〇年代後半にサンタ・クルーズで、水を入れた瓶が、芝生のあちこちに置かれており

三番目の手紙はロス・ガトスからのものであったが、ここでも同様だった。水がいっぱい入ったガラスやプラスティックの水差しが犬を追い払うと思われているのだ

サンディエゴもサンタ・クルーズもロス・ガトスもカリフォルニア州の都市である。また、ここではプラスチック・ボトルだけでなくガラス瓶も使われていると報告されている。

わずか3件だが、1988年の時点で米国にも同じ方法が存在しているという証言があること、また2番目の手紙の内容を信じるなら1970年代後半からすでに見られたらしいことを、ひとまず頭に置いておいてほしい。

私は2015年の段階でこのブルンヴァンのコラムを読んでいたが、「読者からの手紙」をどこまで信用してよいか分からないので、判断を保留していた。しかし後述するように、のちにこれらの証言を裏付ける、1980年代のアメリカの新聞記事を発見した。

このコラムはこんな文章で締めくくられている。

ニュージーランドから戻って以来、わたしはソルトレイク・シティをあちこち歩き回ってきたが、当地でこの特別な形の芝の手入れが行われているのをまだ見たことがない。だがわたしは、この事柄に関してわたしが見出したことが、これらのほんのわずかなことだけでは終わらないと思っている。

ブルンヴァンの予言は見事に当たる。間もなくこの方法はニュージーランドから海を渡り、オーストラリアに伝わった。

2000年頃(※5)、オーストラリアのテレビ司会者ドン・バークは、自身がホストを務めるガーデニング番組「Burke's Backyard」の中で「犬よけボトル」は迷信であり、効果はないと説明している。わざわざ番組で取り上げていることからも、この話がどれほど広まったかがうかがえる。


「犬よけボトル」は迷信であると説明するドン・バーク


エイプリルフールから数年後、スカロウは「あれはエイプリルフールのジョークだったんですよ」と打ち明けた。しかし、もうその頃には、この方法は世界各地に広まっていた。

※1 スカロウがラジオで件の発言をした年は特定できていない。しかし1988年の「1月から5月まで」ニュージーランドに滞在したブルンヴァンが、現地のいたるところで芝生の上にペットボトルが置かれているのを目撃したと記述しているため、スカロウがラジオで件の発言をしたのは1987年か、それ以前の年のエイプリルフールだろうと推測できる。

ブルンヴァンは現地滞在中に地元のテレビ・ラジオ番組ガイド誌『リスナー』に「水入りボトルは犬よけの効果があると思いますか?」という内容の記事が載っているのを見ている。つまり「ボトル置き」はその時点では新鮮なできごとだったのだろうと思われる。そこで、発端となったエイプリルフールは1988年からそれほど離れた年ではないのではないかと考え、ここでは「1980年代の中頃」と記した。

また、ニュージーランドの国営放送局TVNZが2009年に放送した番組では、スカロウのエイプリルフール発言を「20年前」としている。つまり1989年になる計算だが、これはブルンヴァンの滞在時期を考えると明らかに間違っている。

TVNZ|Companies buy into April Fools' pranks

ただ間違いだとしても「20年前」と報じている点は有力なヒントになる。これもまた、「1988年からそれほど離れた年ではないのではないか」と推測する根拠だ。

※2 ジャン・ハロルド・ブルンヴァン『くそっ! なんてこった―「エイズの世界へようこそ」はアメリカから来た都市伝説』(1992年)所収
Jan Harold Brunvand『Curses! Broiled Again! The Hottest Urban Legends Going』 (1989年)

※3 「瓶」と訳されているが、そのあとに続く説明(清涼飲料水のプラスティック容器)から、日本で言うところのペットボトルであることが分かる。

※4 ここも少し分かりにくいが、「きれいなもの」というのはラベルを剥がしたペットボトルのことだろう。日本のペットボトル置きも「ラベルなし」がスタンダードになっているのはご存じの通りだ。

※5 放映年を特定することはできなかったが、ドン・バーク(1947年生まれ)の当該映像の容貌から2000年前後だろうと推測した。番組は2004年に終了している。

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plastic bottles(PET bottles)filled with water/Japan,2014


【アメリカ西海岸発の、もう一つの起源】

1989年、すなわち民俗学者ブルンヴァンがニュージーランドで犬よけボトルを目撃した翌年。イリノイ州シカゴのタブロイド週刊紙『シカゴ・リーダー』で連載されていたQ&Aコラム「ストレート・ドープ」1989年9月掲載記事において、「オレゴン州で犬よけボトルが一般的になりつつある」という報告がされている。ガロンミルクのジャグ(gallon milk jug)に水を半分入れたものを芝生に置くのだという。

The Straight Dope|Do jugs filled with water keep dogs off your lawn?

gallon milkというのは米国で販売されている1ガロン(約3.8リットル)入りのミルクで、半透明のプラスチック容器に入っている。私の観測範囲では、ミルクジャグを使う犬よけは他の国では見られない。また、「水を半分入れる(half filled with water)」という点も特徴的だ。新しい様式が誕生している。

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米国で販売されている一般的なガロンミルク


ここで注目したいのはオレゴン州の位置だ。オレゴン州は、南でカリフォルニア州と接している西海岸の州である。民俗学者ブルンヴァンに届いた読者の手紙がすべてカリフォルニア州からのものだったことを思い出してほしい。

この「ストレート・ドープ」の当該記事は2006年に同紙の公式サイトに転載された(上記リンク先)。そしてこの記事を踏まえたメッセージボード(コメント欄)に読者からコメントが書き込まれている。

The Straight Dope Message Board|Jugs Of Water On The Lawn

以下はその中からの抜粋。

ニュージーランドではジャグではなくボトルです。それはいたるところにあります。
ここ数年の間に、カリフォルニア州モデスト周辺で芝生に置かれたジャグを見たことがあります。

ここでも「カリフォルニア」の名が出ている。

調べを進めると、さらに古い新聞記事に犬よけボトルの話題を見つけることができた。下記はカリフォルニア州サンディエゴで発行されている日刊紙『サンディエゴ・ユニオン・トリビューン』に掲載された、1986年6月29日の記事の抜粋である(同紙の過去記事販売サービスを利用して購入。1記事単位で購入できる)。前出の『シカゴ・リーダー』紙の記事の3年前のものだ。

これはVincent Lazaneoという園芸アドバイザーが読者からの質問に答えるQ&Aコラムの一部である。

Q. When I first arrived in San Diego I noticed that Mason jars were placed on the lawns of many private homes. Later, I saw an item that claimed Mason jars keep dogs away. Can you please explain if there is a connection? -- F.R., San Diego

Q. 私がサンディエゴに来たばかりの頃、多くの個人宅の芝生にメイソンジャーが置かれていることに気づきました。その後、メイソンジャーが犬を遠ざけるという主張があることを知りました。もしメイソンジャーが犬よけになるのなら、なぜなのか説明していただけますか?-- F.R.、サンディエゴ

投稿者が「サンディエゴに来たばかりの頃」がいつなのか分からないが、1986年以前に「メイソンジャー」が犬よけとして使われていたことが確認できる。

Vincent Lazaneoはこの質問に対して「私はこの方法の有効性についてはかなり懐疑的です」と答えている。

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メイソンジャー


この記事の掲載の2ヶ月後、1986年8月10日の同コラムにおいて、再びこの話題が取り上げられる。犬よけボトルについての、読者からの反響を紹介したものだ。届いた手紙は4通で、いずれも犬よけの効果について肯定的なものだった。

※『サンディエゴ・ユニオン・トリビューン』データベースより記事を購入
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Readers report water jars do indeed keep dogs at bay
(読者は、水の瓶は確かに犬を寄せ付けないと報告しています)

1通目
About six years ago when my brother and I were delivering Meals on Wheels, we saw some two gallon jugs of water on a lawn in Point Loma. We asked the owner about them and she said it keeps the dogs off. We decided to try the method using instant coffee jars. We had been cleaning messes off our lawn three or four times a week. Now we only notice something once a month. -- F.S., San Diego

6年ほど前、兄と私がミールズ・オン・ホイールズ(給食の宅配)を配達していたとき、ポイント・ローマ(カリフォルニア州サンディエゴの半島)の芝生の上に、水の入った2ガロンジャグ(two gallon jug)がいくつかあるのを見ました。飼い主に聞いてみると、犬を寄せ付けないようにしているとのことでした。私たちはインスタントコーヒーの瓶を使って試してみることにしました。それまでは週に3〜4回、芝生のフンを掃除していましたが、今では月に1度だけです。-- F.S.、サンディエゴ

「6年ほど前」ということは1980年頃のことだ。これはどう考えても、イーオン・スカロウのエイプリルフール発言より古い。また、民俗学者ブルンヴァンが読者から聞いた証言(1970年代後半にカリフォルニア州で水を入れた瓶が芝生のあちこちに置かれているのを見たことがある)とも符合する。

2通目
I have had great success using the two-liter soft-drink bottles to keep my yard clean. I tear off the labels and fill the bottles almost completely with water. -- F.D., San Diego

私は庭を清潔に保つために2リットルのソフトドリンクボトルを使用して大成功を収めています。ラベルをはがして、ほぼ完全に水で満たしています。-- F.D.、サンディエゴ

メイソンジャー、ガロンジャグ、インスタントコーヒー瓶に続いて、ソフトドリンクボトルが登場した。米国で2リットル入りプラスチック・ボトル飲料の販売が始まったのは1978年なので、このsoft-drink bottleがプラスチック・ボトル(ペットボトル)である可能性は十分にある。

3通目
I have used glass jars for years, but now use plastic ones because of small children in the neighborhood. I think that dogs associate the bottles full of water with their own food and water. If you notice, a dog will never do his business where he eats. He always goes off someplace else. However, if your yard is large, you may have to use several bottles. I do and it works for me. -- B.W., Imperial Beach

私は何年間もガラスの瓶を使っていましたが、今は近所に小さな子供がいるのでプラスチックの瓶を使っています。犬は、水の入ったボトルを自分の食べ物や飲み水と関連づけるのだと思います。犬は自分が食事をした場所では決して用を足しません。いつも別の場所に行きます。あなたの家の庭が広い場合は、いくつかのボトルを使用する必要があるかもしれません。私はそうしており、それは功を奏しています。-- B.W.、インペリアルビーチ(サンディエゴ郡の都市)

何年間も(for years)使っているとのことなので、これも1970年代から存在していたという前述の証言を補強する。ガラス瓶からプラスチック・ボトルへの移行が語られている点も貴重だ。

また、この投稿者は犬よけボトルが機能する理由を推測している。犬は、自分が食事をしたり水を飲んだりする場所で用を足さない習性があるので、置かれた水入りボトルを飲み水と見なしたとき、そこでフンをしなくなるという説だ。

犬よけボトルが機能する理由としては、この他に「光の反射を嫌がるから」という説があるが、これは日本でも猫よけボトルの説明としてよく用いられる。

4通目の投稿の内容は「アンモニアを混ぜた水の臭いで追い払う」という方法なので割愛する。実質的には上記3件の報告があったわけだ。

さらにもう一つ、別の記事を紹介しよう。これも過去記事データを購入したもので、同じ『サンディエゴ・ユニオン・トリビューン』紙に掲載されたBilly D. Edsonというライターによるコラムだ。上記Q&A記事の少しあと、1986年9月21日に掲載されている。

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Water, water everywhere and not a ...

Out-of-state guests are often puzzled by the sight of dozens of water-filled jugs sitting on lawns. When I explain these are placed there to keep dogs from soiling the grass, the usual reaction is a sidelong glance.

水を入れたジャグが芝生の上に何十個も置かれているのを見て、州外からの訪問客が戸惑うことがよくあります。これらは犬が芝生を汚さないように置かれているのだと私が説明すると、彼らは疑うような目で一瞥します。
Experts say there is no reason why it should work. Still, an overwhelming majority of homeowners will tell you that the jugs do keep dogs away.

専門家は、効果がないと言います。それでも圧倒的多数の家の所有者は、ジャグが犬を遠ざけていると言うでしょう。

これは重要な資料だ。犬よけボトルがサンディエゴの読者にとって周知のこととして述べられている。そして「1986年の時点で/カリフォルニア州以外の人にとっては珍しいものであり/同州で実践している家はかなり多いらしい」ことが分かる。

紹介が前後したが、この3年後に前述の『シカゴ・リーダー』紙に「オレゴン州で犬よけボトル(ジャグ)が一般的になりつつある」という記事が載ることになる。

つまり、このようにまとめることができそうだ。

カリフォルニア州のいくつかの都市では、少なくとも1970年代後半にはすでに犬よけボトル(メイソンジャーなどのガラス瓶に水を入れて芝生に置く)が見られた。その風習はやがて西海岸を北上し、1980年代にはイリノイ州にも伝播した。年月の経過とともにガラス瓶ではなくガロンミルクジャグやプラスチック・ボトルが使われるようになった。

この発祥はイーオン・スカロウのエイプリルフール発言よりもおそらく古い。犬よけボトルには、ニュージーランド発の流行とは別の、「もう一つの起源」があったと言える。


米国のほうが先なのであれば、スカロウがどこかでそれを知ったのだろうか? と疑うこともできるが、彼はのちに「なぜそんなことを思いついたのか自分でも分からない」と語っている。私はこれを信用したい。別々に発生したのだと。

人間は、こういうことを考えついてしまうものなのだろう。

というわけで、おそらく拙ブログを見て「猫よけペットボトルの起源はエイプリルフール」を紹介したのであろう某テレビ番組には申し訳ないが、その情報は今となっては正確ではない。

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plastic bottles(PET bottles)filled with water/Japan,2015


カリフォルニア州で1970年代から犬よけボトルの風習が存在したという証言が他にもある。下記は「INSTRUCTABLES」というサイトに投稿された犬よけボトルを紹介する記事だ。

INSTRUCTABLES|How to Keep Dogs & Cats From Pooping on Your Yard

執筆者はこの中で以下のように述べている。

70年代、私はカリフォルニアのベニス(ロサンゼルス西部の地区)で働いていました。当時はまだ犬のリーシュ法が施行されていませんでした。犬の多い地域では、水のボトルがたくさんありました。

リーシュ法というのは犬の放し飼いを禁じる法律のことだ。記事には読者からこんなコメントも書き込まれている。

サウス・ロサンゼルス(カリフォルニア州ロサンゼルス南部の地域)にリーシュ法ができる前は、ボトルはどこでも見られました。

リーシュ法だけが変化をもたらしたとは言えないような気がするが(飼い主がフンを片付けなかったり、野良犬がいたりすれば同じことなので)、ともかく70年代からあったことを2名が証言している。

時は流れて2016年。下の写真は英語圏の掲示板サイト「Reddit」に投稿された写真である。場所はシアトル(米国ワシントン州)。

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Reddit|Why do my neighbors have jugs of water along their fence?
「近所の人がフェンスに沿って水入りジャグを置いてるのはなぜ?」というタイトルだ。2016年の時点でも犬よけボトル(ジャグ)の風習が残っている。そしてシアトルもアメリカ西海岸の都市だ。

また、一種の「謎」として投稿されていることから、2016年の時点でその意味を知る人が少なくなっていることが分かる(もちろん当該ジャグの設置者本人に聞かない限り、その意味を断言することはできないが)。

コメント欄には「犬を芝生に近づけないための迷信」「80年代のオーストラリアでブームだった」といった書き込みが見られる。

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plastic bottles(PET bottles)filled with water/Japan,2019


【犬よけと猫よけ】

ニュージーランド発のボトル置きも、アメリカ発のボトル置きも、当初は犬よけとして始まったようだが、その後、各地で猫よけとしても使われるようになる。また、両方を兼ねている地域もあるようだ。日本はご存じのように猫よけが主流である。

下の写真も掲示板サイト「Reddit」に投稿されたもの。2018年、スペインから。

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Reddit|Why are there water bottles outside all the driveways and entrances?
(なぜすべてのdrivewayと玄関の外側に水入りボトルがあるの?)
※drivewayというのは車道から各家の車庫に通じる私道のこと

スペインにも「ボトル置き」が伝わっており、また2018年の時点でその意味を知る人が少なくなっていることがうかがえる。

この投稿には世界各国からさまざまなコメントがついている。以下にいくつかを抜粋する。

●アメリカ/カリフォルニア
抜粋「カリフォルニアでもこれらを見て育ちました。通常、これをおこなうのはヒスパニックの人々で、どうやら犬を遠ざけるためのようでした」

●アメリカ/カリフォルニア
抜粋「カリフォルニア州サンディエゴでもそれをおこなっていました。しかし長い間見ていません」

●アメリカ/カリフォルニア
抜粋「私は80年代にサンディエゴに住んでいて、近所の人がこんなことをしていたのを覚えています」

●アメリカ/テキサス
抜粋「テキサス州のラボックでは、ヒスパニックの地域でこれが一般的でした。ミルクジャグ(gallon milk jugs)を使用し、染料を入れて多色(multicolored)にしていました。犬が庭をトイレとして使わないようにするためだと言われました」

●イギリス
抜粋「私の祖母と彼女の隣人がこれをおこなっていました。水を入れたボトルを芝生じゅうに置いていました」

●スペイン/アリカンテ
抜粋「私はアリカンテの近くに住んでいます。多くの家が水入りボトルをdrivewayに置いています。それらは古いボトルなので、デリバリーサービスで置かれたものだとは思えません」

●ポルトガル
抜粋「ポルトガルでも同じことがあります。私たちの国だけなのかと思っていました」

●フランス
抜粋「南フランスのレストラン/ショップの前で、特に観光地では水で満たされたボトルを見ることがよくあります。犬がおしっこするのを防ぐためです」

その他、ドミニカ共和国、モナコ公国在住の人からも「私の国にもある」という意味のコメントが書き込まれている。

世界各地に広まっていることが分かる。

以前、広島市現代美術館の特設サイトに写真付きコラムを書いたことがある。そこで私はペッ景(ペットボトルのある風景)を取り上げたのだが、後日、それを見たEsteban Zapataさんというコロンビア在住のアーティストからメールをいただいた。彼によれば、コロンビアやメキシコでも「ボトル置き」は見られるそうだ。

それを踏まえると、上記のアメリカから寄せられたコメントに「これをおこなうのはヒスパニックの人々」とあるのが気になってくる。何度も名前が出ているサンディエゴはメキシコに接する都市だ。ひょっとするとアメリカ系犬よけボトルのルーツは中南米にあるのではないか? と想像したくなるが、これ以上のことは分からない。

下記はパナマ共和国の方が書いた2012年のブログ記事。パナマも中南米の国で、コロンビアの北に位置する。

Lingua Franca|Water Bottles, Cats and Dogs

抜粋
ここ数ヶ月、うちの庭の芝生に猫や犬がやってきてフンをするのに悩まされています。
約1週間前、庭師が私に言いました。芝生の上に水入りボトルを置けば、猫や犬が離れていくでしょうと。 試してみたところ、奇跡的にうまくいきました。フンがなくなり、芝生のいやな臭いもなくなりました。

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パナマ共和国の犬よけ・猫よけボトル


このあと出てくるが、犬よけボトルは南米アルゼンチンにも伝わっているようだ。

さらに他の例も紹介しよう。下記はダレン・ベアフットさんというカナダの方のブログ記事。マルタ島へ旅行した際に見た「ボトル置き」を写真とともに紹介している。2007年。

DarrenBarefoot.com|WHY ARE THERE RANDOM WATER BOTTLES ON THE SIDEWALK?

マルタ島の猫よけボトル.jpg
ダレン・ベアフットさんが撮影したマルタ島のボトル。日本でもときどき見られる「一本置き」だ。

ダレンさんは現地の人に聞くまで意味が分からなかったとのことなので、カナダにはそれほど広まらなかったのだろうか。

この記事に寄せられたコメントがまた興味深い。いくつか抜粋する。

●タイ
抜粋「タイでは国中どこでも見られます。野良犬がまだたくさん通りをさまよっているので」

●アルゼンチン
抜粋「アルゼンチンでも同じです。人々は犬を遠ざけると考えています」

●アメリカ
抜粋「私はこれがおこなわれているのをアメリカの両海岸で見たことがあります。ほとんどの場合、1ガロンのミルクジャグが使われていました。猫や犬がそこでおしっこをしないようにするためだといつも言われました」

●ニュージーランド
抜粋「ニュージーランドでいまだにおこなっている人がいます」

●アイルランド
抜粋「5年ほど前、アイルランドでも同じ流行がありました。庭に水入りボトルを置くのです。犬が庭でくつろぐのを防いでくれるそうです」

●マルタ
抜粋「私はマルタの者です。それは犬ではなく猫を追い払うためです。猫は水を怖がりますから。少なくとも私のおばあちゃんの主張では」

マルタ島では日本と同じく猫よけとして置かれているようだ。犬よけと猫よけのどちらが主流になるかは、その地域の環境に左右されるのだろう。マルタ島は猫が多いことで有名なのだ。

産経フォト |猫好きの聖地、70万匹が暮らす 地中海の島国・マルタ共和国

次に、イタリアから2017年に投稿されたYouTube動画をご覧いただきたい。


Per chi crede che i gatti randagi, hanno paura delle bottiglie piene d'acqua. guardate
(野良猫が水の入ったボトルを怖がると信じている人、見て)

イタリアでは猫よけとしても広まったようだ。日本に住む私たちにも見覚えのある光景で、親近感を覚える。コメント欄に「イタリアの北部、中部、南部を結びつける唯一のものだと思います」と書いている人がいる。イタリアではその3つの地域の文化が大きく異なっているということを踏まえた冗談なのだろう。

それを言うなら、ボトル置きは、イタリアどころか世界中を結びつけている。

下記はイタリアのニュース配信サイト「LeccePrima」に掲載された写真。2012年。

LeccePrima_waterbotlles.jpg
LeccePrima|Fra bottiglie e superstizione
(ボトルと迷信の間)

内容を読むと「犬や猫」と書かれているので、イタリアでは犬と猫の両方に対して使っているのだろう。日本でも犬よけのボトル置きがないわけではない。たとえば電柱の下に置かれているペットボトルは犬よけ(というか散歩させている飼い主へのメッセージ)だと思われる。

もう一つ。こちらは2007年にアメリカの情報サイトに掲載された話題。

Neatorama|Do Water Bottles on Sidewalk Discourage Dogs from Peeing?
(歩道の水入りボトルは犬のおしっこを阻止する?)

この記事にもたくさんのコメントが付いている。

●ギリシャ
抜粋「水入りボトルはギリシャとアルバニアの伝統です。猫が通りでおしっこをするのを思いとどまらせます」

●ハワイ
抜粋「ハワイでも同じことがあります。猫を庭から遠ざけるのだといつも言われていました」

日本以外でも猫よけに用いる地域はけっこうあるようだ。

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plastic bottles(PET bottles)filled with water/Japan,2020


下のYouTube動画は、かつてディスカバリーチャンネルで放送されていた『怪しい伝説(MythBusters)』という番組のアーカイブだ。

2012年に放送されたシーズン13のエピソード4、「Cat Deterrents(猫の抑止)」。



庭に猫が入ってこないようにするための方法を実験した回である。この中で彼らはペットボトル置きを試している。ディスカバリーチャンネルの番組なので主にアメリカ・イギリス向けに制作されているのだが、ここでは犬よけではなく猫よけのMyth(伝説/作り話)として取り上げられている点が興味深い。また、ミルクジャグではなくペットボトルだ。

犬よけとして使われるか猫よけとして使われるかは環境に左右されるのだろうし、それは時代によっても変化するはずだ。都市から野良犬が減れば、当然、犬よけボトルの出番も減る。また「飼い犬のフンを片付けるマナー」が浸透した都市においても同様である。

先ほどリーシュ法の話が出たが、各国で、昔に比べて犬よけボトルを置く必要がなくなってきたという都市環境やマナーの変化があるのかもしれない。

ちなみにこの番組『MythBusters』を制作していたBeyond Internationalは、アイルランド、イギリス、オーストラリア、米国で事業を展開するテレビ・映画制作会社で、本社はオーストラリアにある。

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plastic bottles(PET bottles)filled with water/Japan,2020


下記は「the AnswerBank」という知恵袋サイトの投稿記事。この中に「2リットル入りプラスチック・ボトルに水を入れて置く」という犬よけの方法が、アフリカのザンビア、ジンバブエ、南アフリカ共和国にも存在するという証言がある。

the AnswerBank|Are they any good for scaring cats or dogs from defacating on your property?

アフリカ大陸の南端にまで伝わっているのだ。


【インドの犬よけボトルは色水】

だいぶ長くなったが、次が最後の話題だ。

誕生から長い年月が経過しているボトル置きだが、インドでは最近になってこの方法が広がり始めているらしい。それも他国とは少し違い、青色または赤色の水を使うのだという。

下記はインドのガントク(シッキム州)に本社を置く日刊紙『Summit Times』に掲載された2016年の記事。

SummitTimes_waterbottles.jpg
Summit Times|4 drops Ujala keeps stray dogs away? No, really!
(ウジャラ4滴で野良犬を遠ざける? いや、本当に!)

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ウジャラというのはこれ。インドではポピュラーな漂白剤らしい。

この漂白剤をペットボトルの水に数滴入れて着色し、家のまわりに置いたり吊したりする方法がガントク地域で急速に広がっているという内容の記事だ。住民たちはこの色水が犬や猫を遠ざけ、排泄物から自宅を守ることができると信じている。

もう一つ。下記はインドのニュースサイト「ETimes」に掲載された2016年の記事だ。

ETimes|A unique way to ward off strays(野良犬を追い払うユニークな方法)

この記事によれば、インドのコルカタ(西ベンガル州の州都)では「藍色(indígo)の水入りボトル」がいたるところで見られるようになっているという。ボトルは門にくくりつけられたり、窓の下に置かれたりしているそうだ。これらが野良犬を遠ざけると信じられている。

もう一つ。下記は北インドで最大の売り上げを誇る英字新聞『The Tribune』に掲載された2018年の記事。

TheTribune_waterbottles.jpg
The Tribune|Blue water bottles shoo away dogs?
(青い水のボトルは犬を追い払う?)

興味深いのは、日本では(おそらく他国でも)ほとんど見られない「門などにボトルを吊す」という方法がインドではかなり一般的になっているらしいことだ。置く・吊すの両方がおこなわれているらしい。

次のYouTube動画は2018年にアップロードされたインドのテレビニュース。2016年頃から話題になり始めたボトル置きが、2018年に到ってテレビで取り上げられるほどの流行に達したのだろう。


Blue Water Bottles:New & Simple Plan To Avoid Street Dogs Seen At Udupi
(ブルー・ウォーター・ボトル:ウドゥピ〈カルナタカ州〉で目撃された野良犬を避けるための新しくてシンプルな方策)

そしてこちらは赤色の水。インド・マハラシュトラ州の老舗メディア企業、サカルグループが運営するニュースサイト『The Bridge Chronicle』に掲載された2018年の記事だ。

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The Bridge Chronicle|Hadapsar residents turn to superstition to scare strays
(ハダプサールの住民は野良犬を怖がらせるために迷信に頼る)

もう一つ。英字新聞としては世界最多の発行数を誇るインドの日刊新聞『THE TIMES OF INDIA』に掲載された2018 年の記事。ラージコート(グジャラート州)の話題だ。

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THE TIMES OF INDIA|Red liquid a day keeps stray dogs at bay
(赤い液体が一日、野良犬を遠ざける)

もう一つ。ムンバイの英字新聞『Free Press Journal』に掲載された2020年の記事。

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Free Press Journal|Trend in Indore: Hanging bottle of red liquid outside homes to stop dogs from pooping
(インドール〈プラデーシュ州〉の流行:犬のフンを止めるために家の外に赤い液体のボトルをぶら下げる)

記事によるとインドでは現在も野良犬が多く、フンだけでなく狂犬病の問題も深刻らしい。

ここに紹介した各都市の名前を検索して地図上の位置を見ると、インドの北部では青色、中央部では赤色が使われているように思える。そして南部の都市ウドゥピは紫っぽい。

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plastic bottles(PET bottles)filled with water/Japan,2016


ニュージーランド、オーストラリア、北米、中米、南米、ヨーロッパ、アフリカ、日本、インド。言葉や文化や習慣の違いを越えて犬よけ・猫よけボトルは伝播した。世界規模の現象に、あらためて驚いてしまう。

そしてまた、こうも思う。「起源が一つではない」のであれば、それはいくつでもありえるのだ。インドで広まっているボトル置きが、他国から伝わったものだとは断言できない。

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plastic bottles(PET bottles)filled with water/Japan,2016


愛知県の考現学グループ「野外活動研究会」のメンバー・佐宗圭子さんが、名古屋市内で1993年11月に猫よけペットボトルを目撃したという記録を残している。現在確認できる範囲では、これがもっとも古い「日本のボトル置き」の記録だ。

そして翌年、1994年の夏頃には全国で大流行し、その現象がテレビや雑誌で取り上げられたという。

ところで、日本に近いアジア圏はどうなのだろうか。そう思って調べたところ、中国にも、香港にも、台湾にも、韓国にも、犬よけ・猫よけボトルは存在しないようだ。

今のところは。


(了)







posted by pictist at 17:08| 都市鑑賞

2021年02月23日

西大寺バスターミナルの謎

両備バスが運営する西大寺バスターミナル(西大寺バスセンター/岡山市東区西大寺、1966年竣工)には范曽美術館という美術館が併設されており、年に3日間だけオープンします。

このときだけバスターミナルの上へ上がることができるので、その日を狙って西大寺に行ってきました。

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で、上にあがって満足はしたんですが、それとはぜんぜん関係なく、前から気になってる件がありまして。

この「両備西大寺バスターミナル」という文字。よく見てください。

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このロゴには「横棒の左側を丸める」という法則があることが分かります。

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なのに「ミ」だけが逆になっているのです。右側が丸い。

最初見たとき、もしかして施工時に上下さかさまに付けてしまったのかな? と思ったんですが、どうでしょうかね。それとも、あえて「ミ」だけ逆にしたのか。

何年か前にこれに気づいて、ずっと気になっているのです。

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ワッフルスラブ工法

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余談です。下記は設計者の浦辺鎮太郎が描いた構想段階の図面なんですが、図面ではアーチの足元に、万成石を貼った礎石を置く構想になっています。

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でも実際はそうなっていません。少しでもでっぱりがあると、出入りの邪魔になると思ったのかな。





posted by pictist at 07:57| 都市鑑賞

2021年01月30日

第一セントラルビルの階段

昔から好きな場所の一つ。

第一セントラルビル1号館(岡山市北区本町、1978年/昭和53年竣工)。地上1階から地下2階までをつなぐ階段です。

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posted by pictist at 00:03| 都市鑑賞