2024年06月17日

岡崎隼人『だから殺し屋は小説を書けない。』

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岡山在住の小説家、岡崎隼人さんの『だから殺し屋は小説を書けない。』を読んだ。発売されたのは今年の3月。本作は、第34回メフィスト賞受賞作家による18年ぶりの新作である。これは主人公の殺し屋が、ある小説家に出会って「生まれ直す」物語だ。

※以下、本作後半の展開に触れます。

主人公は第二章のラストで重傷を負って海に沈む。彼は、一度は死を受け入れる。「やっと終わる」と思う。死という安寧に身を委ねる。しかし自分と一緒に沈むボールペンに気づき、それを握りしめ、再び生きようとする。そのボールペンは、彼が敬愛する小説家のものだ。

彼に「生きたい」と思わせたものが「小説家のペン」だったことに、私は心を動かされる。それは、岡崎隼人という作家自身の祈りのようだ。長いブランクを経て復活した著者が、海底を蹴って浮上する主人公の姿に重なる。暗い海面から顔を出して思い切り呼吸をしたとき、彼はもう一度生まれたのだ。

岡崎さんによると、すでに次作を執筆中とのこと。楽しみです。

『だから殺し屋は小説を書けない。』
著者/岡崎隼人
出版社/講談社
発売日/2024年3月14日
定価/2090円(本体1900円)
ページ数/288ページ
ISBN/978-4-06-534810-9

版元ページ→ 講談社BOOK倶楽部|だから殺し屋は小説を書けない。


posted by pictist at 11:33| レビュー