同じ旭川に、ケレップ水制に似た石積みの突堤(波止)が2ヶ所ある。ケレップ水制に挟まれるようにして並んでいるので、混同してしまうかもしれない。どちらもケレップ水制と同時期につくられた土木構造物だ。
一つは岡山市中区平井地区にある平井貯木場跡(1937年/昭和12年竣工)。県北で伐採して運んできた木材を一時的に貯蔵するためにつくられた施設で、1932年(昭和7年)から開始された旭川改修工事の附帯工事として建設された。
一級河川に設置され、しかも河道断面の半分を占めるほどの貯木場は、全国的にも類例がない。また、瀬戸内・九州エリアの護岸などでよく見られる巻石構造でつくられているのも特徴だ。
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河道側から堤防側・上流方向を向いたところ。右端にホテルUSAが見える。

河道側から堤防側を向いたところ。正面にホテルUSAが見える。鉄塔の下あたりに見えているのは平井排水樋門。

平井排水樋門。平井貯木場はもともと2面だったが、1979年(昭和54年)に平井排水樋門が設置されたことで上流側の貯木場が2つに分断され、現在は3面になっている。

堤防側から河道側を向いたところ。奥へまっすぐ伸びているのが分断部の石積み。上記の事情を踏まえると、この分断部の石積みは平井排水樋門が設置された1979年(昭和54年)につくられたことになるが、その時代にわざわざ石積みでつくったというのは面白い。

堤防側から河道側・下流方向を向いたところ。

排水路で分断された2面のうち、下流側の貯木場跡。

これも排水路で分断された2面のうち、下流側の貯木場跡。

排水路で分断された2面のうち、上流側の貯木場跡。

排水路で分断された2面のうち、上流側の貯木場跡。

排水路で分断された2面のうち、上流側の貯木場跡。目の前の石積みは上流側の北端部なので、竣工時のもの。後年つくられた上掲の分断部の石積みとは違い、はっきりと巻石構造になっているのが分かる。
あと鉄塔がかっこいい。

排水路で分断された2面のうち、上流側の貯木場跡。河道側から堤防側・下流方向を向いたところで、左側に見えているのが上掲の石積み。

上流側の北端部に残っているコンクリート製の係船柱。木材を筏にして流す方法で運んでいたので係筏柱と言うべきか。
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ケレップ水制と同時期につくられたもう一つの石造構造物が、岡山市中区桜橋地区にある岡山ガス揚炭施設跡(※1 1932年〜1943年竣工/昭和7年〜昭和18年竣工)だ。現在も同地に本社を置く岡山ガス株式会社が建造したもので、船から石炭を搬入するための船着場である。
岡山ガスはそれ以前までは三蟠鉄道(1915年/大正4年開業)で石炭を運んでいたが、1931年(昭和6年)に三蟠鉄道が廃業したため、舟運に切り替えた。
舟運が鉄道輸送へ移行するだけであれば普通だが、再び舟運に戻っているところが面白い。


突堤の先に立って堤防側を向いたところ。ガスタンクがあるので分かりやすい。

中央の物体は誘導標の跡だろうか? コンクリート製の基台から鉄柱が伸びている。

雁木が二つある。下流側には短めの突堤が。

四角いコンクリート塊が土手へ向かって2つ並んでいる。これは石炭の搬送コンベアを支えていた橋脚だ。

『岡山瓦斯七十年の歩み』(1983年)に掲載されている航空写真をトリミングしたもの。搬送コンベアが写っているが、この頃にはすでに石炭ガスの製造は廃止されている(1967年よりナフサへ、1979年よりLPGへ変更)。
ボートも写っている。この場所は今でも係船岸として機能しているらしく、何年か前に小船が停泊しているのを見かけたことがある。

下流側の短い突堤には巻石構造のニュアンスが入っているように感じられる。カマボコ型とまではいかないが、先端にいくほどエッジがゆるやかになっていて巻石っぽい。また、先端がコンクリートになっている点も興味深い。『岡山瓦斯七十年の歩み』に「1948年/船溜り護岸崩壊箇所の修復工事竣工」と書かれているのはこのコンクリート箇所のことかもしれない。





すぐ隣りのケレップ水制。
平井貯木場跡は『岡山県の近代化遺産』に掲載されているので知っている人は多いと思うが、この岡山ガス揚炭施設跡は近代化遺産として振り返られることがほとんどなく、主だった文献にも載っていない。
前述したように岡山ガス揚炭施設跡もケレップ水制や平井貯木場跡と同じ時代に建造された石造構造物であり、産業遺産の一つでもあるので、見つめなおす価値は十分にあるのではないかと思う。
※1/『岡山瓦斯七十年の歩み』によると1932年(昭和7年)には「揚炭用運河施設は予定通り完了す」とあり、また一方、1943年(昭和18年)には「工事中の網浜工場前揚炭設備は3月31日竣工し揚炭作業開始す」とある。そのため、ここでは竣工年の幅を取って記載した。
【参考文献】
『岡山県の近代化遺産』(岡山県文化財保護協会、2005年)
『岡山瓦斯七十年の歩み』(岡山ガス株式会社、1983年)
「戦前の旭川改修と舟運の整備」(佐合純造、松浦茂樹/土木史研究第19号、1999年)
「西日本石造文化圏における「巻石」構造物-岡山県を中心とした実態調査」(樋口輝久、馬場俊介/土木史研究第18号、1998年)