2022年03月15日

『はみだす緑 黄昏の路上園芸』

『はみだす緑 黄昏の路上園芸』
村田 あやこ(文、写真)
藤田 泰実(デザイン、イラスト)
発行:雷鳥社
定価 1,600円+税
ISBN978-4-8441-3785-6
2022年3月24日発行
版元ドットコム|『はみだす緑 黄昏の路上園芸』

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発売間近の『はみだす緑 黄昏の路上園芸』を一足早く拝読した。まっさきにお伝えしたいのは、本書は路上園芸「以外」も登場する本ですよ、ということだ。書名の副題に「園芸」という言葉が入っているが、本書は人間に飼われていない野生の植物(←この5文字に傍点を打ちたい)も取り上げている。そこが面白い。

村田あやこさんは都市で起こりがちな「植物の現象」を丁寧に拾い集める。

都市は当然、人間がつくったものだ。だから都市で生きている植物は、人間の営みと常に関係していると言える。園芸植物として育てられていようと、野良植物として道端に生えていようと、そこが都市なのであれば、どちらも「人との関わり」を持っているという点では同じだ。『はみだす緑 黄昏の路上園芸』は、その両方を見つめる。このレンジの広さが、本書の内容を豊かなものにしている。

たとえば、「緑のアパートメント(段差解消スロープの穴から顔を出す植物)」(29ページ)という現象は、誰かが意図的につくったものではない。段差解消スロープという都市の構成要素と植物が関わることによって生まれる「何か」だ。村田さんはそれを掬い上げる。

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路上園芸(軒先で育てる植物)にまつわるあれこれが本書のメインテーマだ。だからトロ箱も、室外機も、貝殻も、小人の置物も、猫よけペットボトルも登場する。さらに路上園芸を取り囲む事物についても描かれる。ガムテープで修繕された玄関ドア、スナックの店先に貼られた知らない演歌歌手のポスター、物干し竿がわりに使われる木の枝。そしてなにより、路上園芸を愉しむ人々。

本書はまちに暮らす架空の人物たちを通して、私たちと同じ都市生活者を見つめる。読むうちに、人がそこに暮らしている、人がそこで生きているという当たり前のことが、しみじみと胸に迫ってくる。

書名の「はみだす緑」には、おそらく二つの意味がある。一つは、石垣の隙間などからはみだしている野生の植物のこと。39ページに「はみだせ緑」と題した一文があり、「街の隙間で生きる植物を思わず応援したくなったときに発する言葉」と説明されている。

もう一つの意味は、路上園芸そのものだ。路上園芸の植木鉢は公道にはみだしていることが多い(帯文には「路上にはみだす植物愛」とも書かれている)。まちの人々は、はみだす園芸をなんとなく許容しながら暮らしている。そんな「包容力」についてのコラムが100〜101ページにある。

「はみだす緑」を鑑賞することは、「はみだしていてもいい」状況に出会うことでもある。本書のタイトル『はみだす緑』には、私たちの生きるこの世界が「はみだす」を肯定する場所であってほしい、という願いが込められているのかもしれない。

村田さんは植物を通して、人の暮らしを、都市を見つめる。

園芸の巧者を英語圏で「グリーン・フィンガーズ」と言うらしいが、さしずめ村田さんは「グリーン・アイズ」だろうか。読後、その眼を少し分けてもらえたような気がした。

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現在、『はみだす緑 黄昏の路上園芸』の刊行記念展が開催中です。写真やイラスト原画などを展示しているとのこと。著者が在廊するタイミングもあるみたいですよ。

【はみだす緑 解体新書】
期間:2022年3月14日(月)〜27日(日)
会場:BALLOND'ESSAI ART GALLERY 3F
(本屋のアンテナショップ「BOOKSHOP TRAVELLER」隣)
住所:155-0031 東京都世田谷区北沢2丁目30-11北澤ビル3F
営業日:月・火・金〜日 12:00-19:00 (休業日:水・木)

デザインとイラストを担当されている藤田泰実さんの絵がたいへんすてきで、本書の大きな魅力になっていると思います。原画を鑑賞できる貴重な機会です。ぜひ。

『はみだす緑 黄昏の路上園芸』は村田さんと藤田さんの共著ですが、まさに共著と呼ぶにふさわしい、「テキスト担当とイラスト担当」というような関係を越えた、お二人(SABOTENS)の作品になっていると思いました。



posted by pictist at 20:04| レビュー