2024年09月20日

型板ガラスはなぜ衰退したのか

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型板ガラスを10年以上、撮り集めてきた。主な商品はほぼ撮り終えたので最近はあまり撮影をしていないが、今も建物の窓を気にしながら歩く癖は治っていない。

現在、日本のガラスメーカーが製造している型板ガラスは「梨地」「霞」の2種類のみで、昭和時代に比べると圧倒的に少ない。かつて数十種あった商品ラインナップのほとんどは製造されていない。なぜだろうか。

住宅着工数が減っているという現実はあるにせよ、窓ガラスの需要はあるわけだから、型板ガラスのデザインの選択肢がもう少し残っていてもよさそうなものだ。流行の盛衰があるにしても、この少なさは極端すぎないだろうか。

型板ガラスの衰退の理由としてよく言われるのが「カーテンの普及」だ。しかしこの説明はどうも腑に落ちない。型板ガラスが流行していた当時、1960〜70年代にもカーテンは存在していた。そもそも「カーテンがあるから型板ガラスはいらない」とはならないだろう。

それに外窓だけが窓ガラスではない。屋内のガラス障子や仕切り壁にもガラスを使うことがある。昔はそういった箇所にも型板ガラスが使われていた。今でもいろんな模様の型板ガラスがあれば使いたい人はいるはずだ。それなのになぜ、型板ガラスの選びしろがこんなに少ないのか。

私は、板ガラスの製造方式が変わったからではないかと考えている。

型板ガラスは「ロールアウト法」で製造される。2本のロールの間に溶けたガラスを流して板状にする製造方法だ。このロールに模様を彫り込むことで、間を通るガラスに模様をつけるという仕組みだ。

1950年代、イギリスで画期的な板ガラスの製造法が開発された。「フロート法」である。これは溶融したガラス素地を溶融したスズの上に浮かべて板状にする製造方法だ。フロート法は低コストで平坦かつ平滑な板ガラスをつくることができるため、ガラスメーカー各社は続々とフロート法を導入していった。1965年に日本板硝子が、翌1966年には旭硝子が導入している。

フロート法はその原理上、模様入りガラスをつくることができない。

少しずつ設備の置き換えがおこなわれ、時代と共にロールアウト方式の製造ラインが少なくなっていったのだろう。板ガラス生産に占めるフロートガラスの割合は1970年で20%弱だったが、1981年には70%に迫り、80年代中頃には80%を越えている。型板ガラスの衰退時期とぴったり重なっている。

置き換えのペースが緩やかなのは、「フロート法で製造できるガラスの厚み」の範囲が当初は少なかったからだ。技術革新に伴って、より薄いガラスの製造が可能となり、それと共にフロートガラスの生産量が増えていった。

これこそが型板ガラスの衰退の主要因なのではないだろうか。現在も日本の板ガラスはほぼフロート法で製造されている。

ところで、ガラスの中に金網が入った「網入りガラス」という製品がある。通常の窓ガラスより強度があり、また延焼防止効果もあるため、現在も様々な場所で使用されている。この網入りガラスは、ロールアウト法でしかつくることができない。だから型板ガラスの製造設備がゼロになることはない。

とはいえ、ほとんどの種類の型板ガラスは今後新たにつくられることはないだろう。今のうちに鑑賞しておきたい。

【参考文献】
「板ガラス成形技術の変遷―フロート法の台頭と技術の棲み分け―」(大神正道、2009年)

posted by pictist at 06:58| 都市鑑賞

2024年09月12日

『団地ブック』第7号に俳句を寄稿しました

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あの『団地ブック』にゲストとして寄稿させていただきました! 団地ブックの既刊はすべて持っていて、毎回楽しみに読んできた同人誌なので、書かせてもらえてうれしいです。

去年から俳句をつくり始めて、これまでにシュロをテーマにした連作を2つ発表してるんですが、今回はそれに続くシュロ俳句シリーズ第3弾となります。タイトルは「棕櫚が丘団地」。近未来の団地を舞台にした連作20句です。

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私は団地に住んだことはないのですが、各方面への取材とイマジネーションを駆使して、3000戸を擁する大規模団地「棕櫚が丘団地」の未来の住人として俳句をつくってみました。

近いうちに通販が始まると思いますので、スタートしたらまたお知らせします。

棕櫚咲けば咲きましたねとゆき違ふ/内海慶一
住まひとは平らなる床いちご水


シリーズ過去作「ようこそシュロランドへ」「棕櫚村の事件」と併せて読むと、さらに面白いと思います。
こちらもよろしくお願いします。
・『シュロ3』に棕櫚俳句を寄稿しました
・句集『棕櫚村の事件』をつくりました

【追記】
大阪のすてき書店シカクさんで『団地ブック』第7号の販売が始まりました!
バックナンバーも揃ってますよ。
シカクオンラインショップ|チーム4.5畳「団地ブック7号」

posted by pictist at 23:26| 執筆

スマートシティとキノコとブッダ

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石川初さん(ランドスケープアーキテクト、慶應義塾大学環境情報学部教授)の共著書『スマートシティとキノコとブッダ 人間中心「ではない」デザインの思考法』がもうすぐ発売されます。本書を一足早くご恵投いただきました。なぜかというと、私が2013年に発案した「後ろ向きな絵手紙」が紹介されているからです。

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慶應SFC石川初研究室ではこれまでに何度か「後ろ向きな絵手紙」を課題に使ってくださっているのですが、今回、本書の第4章「人間中心「ではない」思考法 練習編」の中で練習問題の一つに入れてくださっています。

ちなみにこれは以前、イラストレーターのオオスキトモコさんと私が一緒につくった「後ろ向きな絵手紙」。

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本書がテーマに掲げているのは「発見的で開眼的な創造性」。それを身につけるための練習の一つというわけです。

《人類学的な言い方であれば「野生の思考」や「ブリコラージュ」、思考法的な言い方であれば「等価交換」や「エフェクチュエーション」、デザイン的な言い方であれば「予期せぬ発見」や「見立て」》
『スマートシティとキノコとブッダ 人間中心「ではない」デザインの思考法』 序章より

まだ読み始めたところですが、本書には、目の前に広がる世界をもう一度捉え直すための「考えるヒント」がたくさん詰まっていると思います。啓発的でありながらも、分かりやすい答えを提示するようなノウハウ本ではない。都市や文明や人間を「どう捉えるか」「どう考えるか」を今までとは違うアプローチで模索し、広義のデザイン思考を鍛える本です。

『スマートシティとキノコとブッダ 人間中心「ではない」デザインの思考法』
著者/中西泰人、本江正茂、石川初
定価/2,500円+税
仕様/360ページ
発売日/2024年9月19日
出版社/ビー・エヌ・エヌ


【目次】
序章──スマートシティとキノコとブッダ
発見的・開眼的に創造する
人間中心主義を超えて──東洋的な思考を身につける

第1章 人間中心「ではない」デザインの思考法 理論編
問いと答えと、解き方の関係と順番
モノの価値を発見し開眼させる:ブリコラージュ
答えから答えが生まれる
受動的でありつつも能動的でもある
無分別智で新しい組み合わせを発見する
無分別智を繰り出す心と身体
無分別に発想する
無分別智と無心

第2章 人間中心「ではない」デザインの思考法 対話編
テクノロジーを/が生成する新しい人間
人智を超えたテクノロジーに向きあう
「スマートシティ」は人類の知性や徳を上げてくれるのだろうか?
中西泰人×本江正茂×石川初キックオフ鼎談
オルタナティブな知性に対する「想像力」と、人間中心主義を反転させる「デザイン」の可能性
ゲスト:久保田晃弘
情報の分解・編集から立ち現れる不可視のスマートシティ
ゲスト:豊田啓介
キノコの知性、森の知性。人間の想像を超えた知のネットワークが都市のビジョンを変革する
ゲスト:深澤遊
人はスマートシティにもパンジーを植えるのか? テクノロジーに飲み込まれた第三風景にも抗う「亜生態系」
ゲスト:山内朋樹
宗教と神話がつくり出してきた「ヒトと異なる知性」。ヒューマンセンタードを超えたワイズフォレストを求めて
ゲスト:石倉敏明
「発酵」という世界の窓から覗く、人間と生物とロボットのいる生活風景
ゲスト:ドミニク・チェン
根っこを持った人工知能。スマートシティの下半分を考えていく
ゲスト:三宅陽一郎
朽ちゆく「近代都市」をリ・デザインする。人と自然が共創する「食べられる森」
ゲスト:ACTANT FOREST
都市に生える場所
ゲスト:津川恵理

第3章 人間中心「ではない」思考法 実例編
チーバくん
壁の本
4分33秒
Lo-TEKとFAB-G
わらのワークショップ
スツールのバリエーション
百均造形
役に立たない機械
ファスナーの船とファンタジア
家具型ロボットFurnituroid
マイブームと民藝
東京R不動産と開放系技術

第4章 人間中心「ではない」思考法 練習編
咄嗟の工作
そそる謎メニュー
ヒマワリゲリラ
どこかの地面
植物に名前をつける
20倍の都市
ゴジラになって都市に棲む
鑑賞ガイドをつくる
コーラを薄めながら飲む
後ろ向きな絵手紙
5年寝かそう
21世紀が展示される博物館
パンジーとして詠む
レプリカントになってみる

終章──無分別智を共鳴させ縁起的な網を繕う
他者や他種と一緒に考える
考える都市の中で考える
偶然の網を紡いでいく
他力を受け入れ自力を超える
人間中心「ではない」デザインの思考法へ


【あわせて読みたい】
「後ろ向きな絵手紙」が文学フリマに登場
後ろ向きな絵手紙をつくったよ(今さら)

posted by pictist at 02:00| レビュー