2024年08月10日

岡山駅の不思議な「葡萄の塔」

岡山駅前にこんな塔があるのをご存じだろうか。

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これは「葡萄の塔」というもので、特にこれといった機能はない。ただの塔である(以前は夜間に葡萄が描かれたアクリルの部分が光っていたが、照明というほどのものではなかった)。

面白いのは、この塔を多くの人がちゃんと認識していないということだ。駅前のいちばん目立つところに立っているにも関わらず、なぜか人の記憶に残らないようなのだ。

地元の知り合いに聞いても「そんな塔ありましたっけ?」という答えが返ってきたりする。なんという存在感のなさだろう。

「いや、私は認識してます」という人もいるだろう。ではあなたは、葡萄の塔が何本あるか答えられるだろうか。

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噴水の向こうにそびえ立つ葡萄の塔。まずはここに1本。

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分かりにくいが、ホテルグランヴィア側、左端の樹木の奥に葡萄の塔が少し見えているのが分かるだろうか(クリックで拡大画像が表示されます)。これが2本目。右端に見えているのは上掲の1本目の塔だ。

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そしてこれが3本目。右端、駅前ロータリーの脇に立っている。

正解は3本でした。

実は2本目と3本目の葡萄の塔は少し前に解体されて現存しない。しかしなくなったときまったく話題にならなかった。最初の写真に写っている噴水(ふれあいの泉)も現存しないのだが、こちらは撤去を惜しむ声がSNSにあふれ、テレビや新聞でも報道された。

それとは対照的に、葡萄の塔は誰からも惜しまれずに消えていった。それはそうだろう。もともと存在が認識されていないのだから惜しまれようがない。

存在が認識されていない物体が消えたとき、はたしてそれは「消えた」と言えるのだろうか? という哲学的な問いが脳裏をよぎる。残る葡萄の塔は1本だが、こちらもいずれ、誰にも気づかれることなく消えていくのだろう。

この話を友人にしたら、「岡山には何度も訪れているけどそんな塔は見たことがない。これは内海さんがつくったフェイク画像なのではないか」と言われた。

私もそんな気がしてきた。


posted by pictist at 14:20| 都市鑑賞

2024年08月08日

さよなら緩速濾過池(三野浄水場)

三野浄水場(岡山市)の緩速濾過池(かんそくろかち)が2024年5月に停止されました。このうち1号・3号濾過池は浄水場の創設時(1903年〜1905年)に築造されたもので、なんと約120年間にわたって稼働してきました。これは現存するものでは国内最古級で、登録有形文化財にもなっています。

特にニュースにもなっていないようですが、岡山の重要な近代化遺産の一つなので、市民としてはねぎらいの言葉をかけてあげたいです。

明治時代にコレラが大流行し、岡山でも多くの死者が出ました。これをきっかけとして、岡山市は全国で8番目という早い時期に、巨額の予算をかけて上水道を敷設しました。近代水道の目的の一つが感染症対策だったという事実に、今あらためて重みを感じます。

去年、施設を見学させていただいたときに撮った写真を以下に紹介します。
※すべてクリック(タップ)で拡大できます。

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1号緩速濾過池

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バルブ室の建屋は増設時(1926年〜)に設けられたもの。改修はされていると思いますが、当時の面影を残しています。

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手前が1号濾過池、その奥が3号濾過池(2号は現存しません)

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縁石に万成石が使われているのも鑑賞ポイント。

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万成石は明治以降に本格的な採掘が始まった、いわば「近代の石」。岡山の近代化遺産を鑑賞するときは、この石の存在も気にしてみてください。

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現在、緩速濾過池の水はすでに抜かれて空っぽになっています。もうこのように水を張った状態では見られないのかもしれません。

岡山市水道局に聞いてみたところ、1号・3号緩速濾過池は今後「モニュメント化を含めた最適な保存方法を検討していく予定」とのことです。



三野浄水場については以前こんな記事を書いたんですが、

三野浄水場の無名建築がかっこいい
http://pictist.sblo.jp/article/186287843.html

残念ながらここで紹介したガチクールな建築「総合取水ポンプ室」は、ファサード面が削り取られ、正面に別の設備が建てられたため、もうかつての姿を見ることはできなくなっています。

ただ、建物そのものは残っているので、昨年の見学時に屋上に登らせてもらいました。

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屋上の塔屋。かっこいい〜

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屋上から見た西川用水の取水樋門。樋門から右方向へ流れているのが西川用水で、左から来て下方向へ流れているのが座主川用水です。2つの水路の間の仕切りが外されるときもあります。

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北東を向いたところ。奥に三野取水塔(1956年/昭和31竣工竣工)が見えます。旭川の伏流水(地下水)を取水しています。

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南東を向いたところ。西川用水は、この下流で旭川合同用水(管掛用水)と合流します。

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浄水場内の古そうな鉄蓋。

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岡山市水道局の局章入りドアハンドル。

ちなみに、岡山市の上水道開業時につくられた施設としては、半田山配水地が現役で稼働しています。また、京橋水管橋も同じく現役です。

【参考文献】
岡山市水道誌(岡山市水道局、1965年)

【あわせて読みたい】
・半田山配水地
・三野浄水場の無名建築がかっこいい
現存最古「京橋水管橋」
・瑜伽山加圧ポンプ場と門田喞筒場

posted by pictist at 18:53| 都市鑑賞