2024年02月23日

岡山の戦争遺跡/能登川橋と柳橋

以前、「地下道と暗渠の立体交差」という記事で岡山市の能登川用水について書いた。能登川用水は西川から西へ向かって流れている用水で、イオンモール岡山の北側を通って島田本町方面へ続いている。

イオンモールの北側までは暗渠になっているが、ここはかつて開渠だった。そしてイオンモールの北東部あたりに能登川橋という橋が架かっていた(橋というより幹線道路だが)。現在の市役所筋と能登川用水が交差する地点だ。
【追記】この記事を書いた当初は名称不明の橋として能登川橋(仮名)と記載していましたが、実際に「能登川橋」という名称であることが判明しました。下記「2024.10.2追記」参照。

この橋の親柱が、東古松南町第2公園(岡山市北区東古松)に残されている。戦前のものだ。

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万成石(岡山産の花崗岩)でできているのが分かる。デコボコなのは空襲の被災によるものだろう。この橋のあった場所は、岡山大空襲の被災エリア内である。

花崗岩は熱に弱く、高熱にさらされるとこのように剥離したり、ひび割れたりする。写真手前の石の側面だけ平滑できれいに残っているが、もともとは全体がこんな感じだったのだろう。これもまた、岡山に残る戦争遺跡の一つだ。

熱に焼かれた花崗岩がどのような表情になるのかを書いた記事があるので参照してほしい。
>>戦災焼失地の内と外(3)

この能登川橋の親柱は、戦後の復興工事の際に東古松第2公園に移設・保存されたらしい。誰の判断だったのかは分からないが、よく残そうとしたなと思う。当時の感覚からすれば、処分されていてもおかしくない。

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上部にセメントらしき痕跡が見える。この上に柱頭が設置されていたのかもしれない。どんな姿だったのだろうか。

ちなみに、同じ場所に「柳橋」の親柱も残されている。こちらは一基だけだ。

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柳橋は、現在の杜の街グレースの南東、市役所筋と大供三股用水が交差する地点にあった橋だ。

これも万成石だろう。アールデコ調のモダンな装飾が施されている。一部欠けているようだが、能登川橋のように熱波にはさらされなかったようだ。比較的きれいに残っている。

能登川橋の親柱も柳橋の親柱も、公園の端っこに置かれていて目立たない。もともとあった場所とも無関係だ。ずいぶん冷たい処遇だが、しかし「残された」という事実はとても重い。それをどのように扱うかは、未来を生きる私たちに託されている。

【2024.10.2追記】
その後、『おかやま街歩きノオト』著者の福田忍さんから新情報をいただきました。まず、当初は仮名として記していた「能登川橋」の名称が、実際に能登川橋で合っていたこと。
そしてもう一つ、柳橋は「市役所筋と大供三股用水が交差する地点にあった橋」ではなかったということ。この橋の名称は「釣橋」と言うそうです。これには驚きました。下記参考文献『今に残る街角の証言者』にそう書かれているのですっかり信じ切っていたのですが(しかも地元の人も近年は「柳橋」と呼んでいたとのこと)、昔は違う名前だったんですね。

では柳橋はどこにあったのか。この親柱はどこからやってきたのか。福田さんのブログに詳細が書かれていますので、ぜひご覧ください。
おかやま街歩きノオト(雑記帳)|「柳橋」の親柱

というわけで「戦争遺跡」は能登川橋のみで、柳橋は戦災に遭っていませんでした。ちなみに柳橋の竣工年は1921年(大正10年)です。

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デジタル岡山大百科|最新詳密岡山市街地図 昭和15年(KM110/32)より


【参考資料】
『今に残る街角の証言者』(岡山の戦争と戦災を記録する会、2015年)

【あわせて読みたい】
岡山大学に残る戦争遺跡

posted by pictist at 21:48| 都市鑑賞

2024年02月12日

句集『棕櫚村の事件』をつくりました

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ミニ句集をつくりました。タイトルは『棕櫚村の事件』。昭和初期の、ある集落を舞台にした連作20句です。俳句を読み慣れてない方でも、たとえば横溝正史とか江戸川乱歩とか夢野久作とか、そんな感じの世界が好きな方ならきっと楽しめると思います。

シュロのことが気になって「シュロ景」という文章を書いたのが2010年。その後、「棕櫚の花」が季語だと知ってシュロ俳句を研究し始め、2021年には「棕櫚俳句を鑑賞する」という文を『シュロ2 写真とまんがと文』に寄稿しました。

これがきっかけとなって「自分でも棕櫚俳句をつくってみたい」と思うようになり、2023年の始め頃から俳句の勉強を始めました。以前から俳句を鑑賞するのは好きだったのですが、読むとつくるのとでは大違いですね。入門書を読みながら悪戦苦闘しつつ、この一年コツコツとつくり溜めてきました。『棕櫚村の事件』はその一部です。

2024年2月25日に岡山市が主催する「おかやま文学フェスティバル」の「おかやまZINEスタジアム」というイベントがあります。そこに誘われて出店することになったので、急遽、ミニ句集ZINEをつくった次第です。屋号は「都市鑑賞舎」。大森と内海の二人店です。大森くんは岡山の妖怪をテーマにした漫画ZINEをつくるとのこと。

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棕櫚咲いて暗室の水濃かりけり 内海慶一

彫像にはらわたありや棕櫚の花   〃

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挿絵は伊藤若冲さんにお願いしました。玄圃瑤華(げんぽようか)というシリーズ作品の中からいくつか使ってます。

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「おかやまZINEスタジアム」、いろんな表現者を知るきっかけになりそうで、いち客としてもとても楽しみにしています。

また、2024年3月9日から始まる「みんなの奉還町書店」にも一箱出店する予定なので、『棕櫚村の事件』はそちらでも販売しようと思っています。

『棕櫚村の事件』
2024年2月25日 初版発行
著者/内海慶一
装幀・デザイン/内海慶一
装画・挿絵/伊藤若冲
印刷・製本/株式会社グラフィック
価格/500円(税込)

さらに近日、別のシュロ俳句の連作を発表する予定がありますので、追ってお知らせいたします。

【追記】
岡山のナイスな古書店「ながいひる」さんでの取扱いが始まりました。店舗または通販で購入できます。
>>ながいひるオンラインショップ
ながいひるさんは新刊書籍も扱っています。ながいひるさんが入荷する新刊書籍のチョイスはとても信頼できるなあ、といつも思っています。

タグ:シュロ景
posted by pictist at 00:29| 執筆