2022年06月05日

戦災焼失地の内と外(3)

戦災焼失地の内と外(1)戦災焼失地の内と外(2)に続く第三弾です。岡山市中心部の空襲被災エリアを歩きます。
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『岡山市史 戦災復興編』(岡山市史編集委員会編、昭和35年/1960年)に収録されている地図「焼夷弾爆撃に依る焼失状況」。市史が発行された当時の岡山市の地図に、空襲被災エリアを重ねたもの。

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旧内山下小学校校舎(岡山市北区丸の内、1934年/昭和9年竣工)は戦災焼失エリア内にありますが、無事でした。さすが鉄筋コンクリート。校舎の写真はこちらをご参照ください。『岡山県の近代化遺産』(岡山県文化財保護協会、2005年)にも掲載されている貴重な建物です。

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がっつり焼失地エリア内にあります。校舎は燃えなかったけど周囲は焼け野原になりました。

旧内山下小学校の校地は、かつては岡山城西の丸でした。そのなごりで周囲は石垣に囲まれています。今回紹介するのは、校地の南側にある石垣です。

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「見たことあるのに見えてなかった」。これは20年近く前から自分の活動テーマとして掲げている言葉なのですが、この石垣も、最初に気づいたときは「見たことあるのに見えてなかった」と強く思わされるものでした。石垣の、なにが見えてなかったのか。

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私は岡山市中心部に住んでいるので、これまでにこの道を幾度となく歩いています。けれどあるときまで、まったく気づいていませんでした。この石垣が「大やけど」を負っていることに。

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知らなければ古びた石垣にしか見えないと思いますが、これは高熱で焼かれた花崗岩特有の表情なのです。表面が剥がれ、ひび割れているこの石垣は、明らかに熱傷を負っています。空襲時の火災の熱波によるものでしょう。

花崗岩(御影石)は硬度は高いけど熱には弱く、石材の中で唯一、バーナーで焼いて表面を粗くする加工法・ジェットバーナー仕上げがあります。炎を当てると、バチバチと音を立てて石の表面が弾け飛びます。

私がこのような「焼かれた花崗岩」の特徴を知ったのは、別の場所の石積みを見たことがきっかけでした。それは旧岡山刑務所の石積み。現在、岡山市立中央図書館と二日市公園(岡山市北区二日市町)がある敷地です。

二日市公園の南側に花崗岩の基礎が残っているのですが、旭川寄りにある石積みが奇妙な劣化の仕方をしていることに気づきました。

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右側に見えているのは酒造メーカー「萬歳酒造」さんの建物ですが、これは戦後再建されたもので、元の建物は岡山大空襲で焼失したそうです。この距離なので、炎は石積みを熱したに違いありません。

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刑務所が焼失エリア内にあります。

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熱に焼かれると花崗岩はこんな姿になるのだということを知ったあとに、旧内山下小学校の石垣を見て気づいたというわけです。

旧内山下小学校の校庭に、こんなものが残されています。

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花崗岩(御影石)の石柱。なにやら文字が刻まれていた痕跡があり、その文字がセメントで消されています。表には「大東亜戦争開戦記念国旗掲揚碑」、裏には「昭和十六年十二月八日建立」と書かれていたそうです。

戦後、GHQの占領政策の中で軍国主義に関係するものは排除されていきました。いわゆる「神道指令」によって「大東亜戦争」という語も禁止されます。この国旗掲揚碑もそのままというわけにはいかなかったのでしょう。

国旗掲揚碑そのものを処分するのではなく、文字を消すという方法が選ばれた。それがGHQの指示だったのか、それとも先まわりして誰かが対応したことなのかは分かりませんが、私はこの選択でよかったと思います。なぜならこうして歴史に残っているから。

国旗掲揚碑そのものを処分したら、「大東亜戦争開戦記念碑なるものが小学校の校庭に建てられた」という事実じたいが失われてしまいます。戦後、その文字が消されたというできごとまでを含めて、私たちは今、歴史を目撃することができる。見た人は必ずなにかを考える。だからこの碑がここに立っている意味はあると思うのです。

この国旗掲揚碑も花崗岩(御影石)でできています。開戦を記念する花崗岩が校庭に立ち、その校庭の周囲では、同じ花崗岩が空襲で大やけどを負っている。その両方を見つめることができる場所として、旧内山下小学校は貴重な「観光地」になりえるのではないでしょうか。



ところで萬歳酒造さんの建物がすてきなので見てください。「さつき心」というお酒をつくっていて、煙突にも商品名が書かれています。

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越屋根ってかわいいよね。

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【参考文献】
おかやまコープ|めぐって学ぼう岡山空襲跡(2020.11.27)





posted by pictist at 21:28| 都市鑑賞