解体した建物の一部を、意図的に残すことがあります。新しい建物に利用するケースもあれば、記念碑的なオブジェとして保存するケースもあります。そのような「継承物件」は全国にあると思いますが、この記事では、私が知っている岡山市内の例をいくつかご紹介します。
まずはこちら。中国銀行本店(岡山市北区丸の内)の入口にある、花崗岩の門構え。これ、100年近く前のものなんです。



門構えは2ヶ所あります。これは建物の西側。


このレリーフは植物のアロエをモチーフにしています。


現在の中国銀行本店と同じ場所に、かつて中國銀行旧本店がありました。当初は第一合同銀行本店として建てられ、1930年(昭和5年)に中國銀行へ名称変更しています。
この門構えは、中國銀行旧本店に使われていたものを保存・活用したものです。

在りし日の中國銀行旧本店(設計:薬師寺主計、1927年/昭和2年竣工、1989年/平成元年解体)
※「大原美術館・中国銀行旧本店を設計した総社の建築家薬師寺主計」展のチラシより

※『岡山復興区画整理誌』より

※日本建築学会『薬師寺主計と中国銀行旧本店 : 郷土が生んだ建築家薬師寺主計の軌跡』(1990年)より

※上田恭嗣『アール・デコの建築家 薬師寺主計』(山陽新聞社、2003年)より

これは現本店の窓。門構えを残すだけなく、旧本店の窓の形も継承していることが分かります。

この門構えの保存や窓の形の継承は、上田恭嗣さんが新社屋の建築時に進言し、実現したそうです。
【追記】
中国銀行本店の店内には、旧本店のステンドグラス(作・木内真太郎)が残されています。アロエの花の、つぼみと開花の2種。これもたいへん貴重なものです。


門構えとステンドグラス、「アロエ」という共通のモチーフでつくったんですね。
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続いてはこちら。岡山中央警察署西川橋交番(旧岡山東警察署西川橋派出所/岡山市北区平和町)の外壁にある花崗岩の飾り。

これは旧岡山東警察署庁舎に使われていた花崗岩を再利用したものです。

岡山中央警察署西川橋交番

岡山市北区天神町にあった旧岡山東警察署庁舎。現在、岡山県立美術館のある場所です。
※岡山県警察本部『岡山県警察50年の歩み』(2005年)より

旧岡山東警察署庁舎(現在の岡山中央警察署、1927年/昭和2年竣工)
※岡山県警察本部『岡山県警察50年の歩み』(2005年)より

1975年(昭和50年)撮影の旧岡山東警察署庁舎。『岡山・玉野の昭和』(2019年)より。
この旧庁舎は、もともとは岡山県庁の別館として建設されたものですが、1945年(昭和20年)に岡山東署が入居し、1982年(昭和57年)まで使用されました。
この旧岡山東警察署庁舎のカラー写真をお持ちの方がいたら、ぜひ見せてほしいです。80年代まで存在していたので、あると思うんですよね。
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続いてこちらはライオンズタワー岡山表町(岡山市北区表町)の敷地にある遊歩道のゲート。





この花崗岩(北木石)のレリーフは、かつてこの場所にあった旧三和銀行岡山支店(1936年/昭和11年竣工、2005年/平成17年解体)の玄関にあったものです。

※岡山県文化財保護協会『岡山県の近代化遺産』(2005年)より
この写真の撮影時はUFJ銀行になっているのが看板で分かります。

※岡山県文化財保護協会『岡山県の近代化遺産』(2005年)より

これは三和銀行時代の写真。
※河原馨『岡山ハイカラ建築の旅』(日本文教出版、1998年)より
紹介した3例はすべて花崗岩です。岡山は花崗岩の産地。だから「継承物件」としてだけでなく、「岡山らしいスポット」としても鑑賞できるのではないでしょうか。
【参考文献】
『戦後の昭和期における岡山の近現代建築』(日本建築学会中国支部岡山支所、2021年)
『薬師寺主計と中国銀行旧本店 : 郷土が生んだ建築家薬師寺主計の軌跡』(日本建築学会、1990年)
『アール・デコの建築家 薬師寺主計』(上田恭嗣、山陽新聞社、2003年)
『岡山県警察50年の歩み』(岡山県警察本部、2005年)
『岡山・玉野の昭和』(樹林舎、2019年)
『岡山ハイカラ建築の旅』(河原馨、日本文教出版、1998年)
『岡山復興区画整理誌』(岡山市建設局区画整理部、1984年)
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