2020年04月29日

『新写真論』

0225152522_5e54bdd2be643.png
書影はゲンロンショップより

大山顕の新著『新写真論 スマホと顔』を読んだ。「ゲンロンβ」連載時にも飛び飛びに読んでいたのだが、とにかく興奮性シナプスが発火しまくる(←誤用)内容で、「おー!」とか「ふおー!」とか何度も呻きながら一気に読了した。

大山さんとはずいぶん長いつきあいになるのだが、本書が面白すぎるので同い年である自分との落差を感じて少し落ち込みつつも、同時に「友達がこんなにすごい本を書いたよ!」とみんなに自慢したい気持ちでいっぱいだ。

僕は昔から「『見る』とはどういうことなのか/世界を知覚するとはどういうことなのか」を考えるのが好きな人間で、都市鑑賞活動をしているのもそうした動機がベースにある。『新写真論』はそんな僕の好奇心にガチハマリする内容だ。

ひとまず目次を見てください。ここに並んでいるワードを眺めるだけでも、読みたくなる人がいるのではないだろうか。いてほしい。

【スマホと顔】
01 スクリーンショットとパノラマ写真
02 自撮りの写真論
03 幽霊化するカメラ
04 写真はなぜ小さいのか
05 証明/写真
06 自撮りを遺影に
07 妖精の写真と影

【スクリーンショットと撮影者】
08 航空写真と風景
09 あらゆる写真は自撮りだった
10 写真の現実味について
11 カメラを見ながら写真を撮る
12 撮影行為を溶かすSNS
13 御真影はスキャンだった

【写真は誰のものか】
14 家族写真のゆくえ
15 「見る」から「処理」へ
16 写真を変えた猫
17 ドローン兵器とSNS
18 Googleがあなたの思い出を決める
19 写真から「隔たり」がなくなり、人はネットワーク機器になる
20 写真は誰のものか
21 2017年10月1日、ラスベガスにて
22 香港スキャニング
23 香港のデモ・顔の欲望とリスク

著者は本書のまえがきでこう書いている。

現在、写真は激変のまっただ中にある。写真というものが「地滑り」を起こしていると言っていい。「写真」という用語をあらためなければいけないとすら思っている。言うまでもなくこれはスマートフォンとSNSによってもたらされた。
(中略)
SNSとスマートフォンがセットになったときこそがほんとうの革命だった。その象徴が自撮りだ。従来の写真論の根幹のひとつである、撮るものと撮られるものとの間の対立をうやむやにしてしまった。

スマホとSNS以降に生きる私たちが撮ったり見たりしている「写真」は、もはや従来の「写真」とは違ってきており、別の名前が必要かもしれない「何か」になりつつあるのだ、と指摘している。では、どう呼べばいいのだろうか。

思いつきで言うが、それは「新写真」だろう。すなわち、本書『新写真論』は新「写真論」ではなく、「新写真」論なのだ。

ここは強調しておきたいところだ。書名だけを見て「(いわゆる)写真とかってべつに興味ないな」と思った人がいたとしたら、「ちょっと待って」と呼び止めたい。そういうんじゃないんです、と。

この本には「私たちの話」が書かれている。私たちというのは、日常的にスマホを使って、暮らしの中でなにげなく写真を撮って、それをシェアしたりしなかったりしている、世界中の私たちだ。AIや顔認証システムやドライブレコーダーやGPSやGoogleと共に生きていかなくてはならない、世界中の私たちだ。

これらのテクノロジーの普及が、人類史(都市、美術、コミュニケーション、知覚の歴史)の中でどういう意味を持つのかを、本書は考察している。

著者はこうも書いている。

これは写真だけの話ではないとぼくは思う。あらゆる領域で同じようなことが起こっている。

本書はたまたま日本に住む人間によって書かれたが、世界のどこの国の人間が書いてもおかしくなかった。

人類は、と言うと大げさに聞こえるかもしれないが、ほんとうに大げさでなく人類は今後、写真について語ろうとするとき、『新写真論』の内容を避けて通れないだろう。本書は、世界中でほぼ同時に起こっている新しい現象について考察しているからだ。

今、スマートフォンとSNSを無視して文明を語ることはほとんど不可能に近い。それと同じ意味で、今後『新写真論』を無視して写真を語るのはかなり難しいと思う。

……なんか興奮して大仰に書いてしまったので難しそうな本だと思われると困るのだけど、この本、分かりやすい文章でサクサク読めます。あと頭から順番に読まなくても大丈夫。エッセイ集みたいなものなので、気になったタイトルの章から読んでみて。

おでかけできない2020年のゴールデンウィーク、ぜひ『新写真論』で興奮性シナプスを発火(←誤用)させて巣ごもりを楽しんでください。Kindle版も出てるよ。

『新写真論』
大山顕
320ページ
株式会社ゲンロン
ISBN-10:4907188358
ISBN-13:978-4907188351
発売日:2020年3月24日
2640円




タグ:都市鑑賞
posted by pictist at 04:05| レビュー

2020年04月22日

円形歩道橋(十日市交差点歩道橋)

十日市交差点歩道橋(岡山市北区十日市西町、2011年竣工)

IMG_8596-3.jpg

IMG_8568-3.jpg


こちらは上から見たところ。歩道橋も円形だが、交差点のまわりの土地も円形になっている。




下は1961年(昭和36年)の同地点。この頃からすでに円形だ。

十日市交差点_1961年.jpg
国土地理院「地図・空中写真閲覧サービス」より

この十日市交差点を含め、岡山市街には円形に用地取得された交差点がいくつかある。戦後にロータリー式交差点をつくる計画があったからだ。しかしその計画は変更され、いずれも直交路となっている。

だから円形歩道橋とこの土地が円形であることは関係ないのだが、関係ないと知りつつも、昔の空中写真を見ると、まるで数十年前から予言されていたような気がして面白い。




posted by pictist at 06:24| 都市鑑賞