2019年01月23日

ちょっと曲がった道:『せとうちスタイル』Vol.4より

雑誌『せとうちスタイル』Vol.4に寄稿した「ちょっと曲がった道」という文章を以下に転載します。

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ちょっと曲がった道

 ちょっと曲がった道が好きだ。その一条が緩やかな弧を描き、遠くで「向こう」へ吸い込まれるようにスッと消える。そんな風景に惹かれる。
 ちょっと曲がった道に立つとき「向こう」の景色は隠れている。それは、一歩ごとに現れる。現れ続ける。
 ちょっと曲がった道が描く曲線は、視線を誘導する。右へ、あるいは左へ。その先の景色へ人をいざなう。
 まっすぐな道や丁字路からはそのような興趣は得られない。まっすぐな道には隠しごとがなく、丁字路には移ろいがない。ちょっと曲がった道は、歩調に合わせて次々に新しい貌を見せ、同時に、ずっと仮面を被っている。
 理想的なちょっと曲がった道の条件は次のようなものだ。両側に建物がぎっしり連なっている。道幅はあまり広くない。そして、ある程度の距離を有している。
 両側に建物が並んでいると道筋が強調されるため、「向こう」とこちら側の繋がりがくっきりする。また、視野が適度に制限されるため、目の前の風景に没入しやすい。
 ちょっと曲がった道はほとんどの場合、数十秒も歩けば視界が開ける。なるべく長く続いてほしいと願うが、やはりすぐに終わってしまう。そのとき私は、「向こう」へ憧れながらずっとここを歩いていたいという、背反した願望を自覚する。
 萩原朔太郎の「坂」という散文詩がある。朔太郎は坂道を好んだ。

 「坂のある風景は、ふしぎに浪漫的で、のすたるぢやの感じをあたへるものだ。(中略)我我は、坂を登ることによつて、それの眼界にひらけるであらう所の、別の地平線に属する世界を想像し、未知のものへの浪漫的なあこがれを呼び起す。」
萩原朔太郎「坂」

 私は坂道に対してはこのような情感を持たないが、ここには、ちょっと曲がった道と共通の感覚があるように思う。「別の地平線に属する世界を想像」できるのは、風景が隠されているからだ。その点で坂道とちょっと曲がった道は同じ性質を持つだろう。ちょっと曲がった道は、水平に横たわる坂道なのかもしれない。
 ちょっと曲がった道の多くは、計画されて生まれたものではない。その道筋は矯正から逃れ、支配から逃れ、永年ありのままの曲線を保っている。だからどこか自由で、かつ、強靭な印象を受ける。
 ちょっと曲がった道を歩きながら、彼方を思う。草を踏み分けて往き交う人々の姿が、アスファルトに重なって消える。

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『せとうちスタイル』Vol.4
112ページ
瀬戸内人
2018年1月25日発売
ISBN-13: 978-4908875205



posted by pictist at 09:06| 執筆

2019年01月20日

ため池に高架橋脚

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助手席から見えた高架橋脚の群れがかっこよかったので、「お」と声を出した。運転者が「停めましょうか?」と聞いてくれた。僕の好奇心をよく分かってくれている。

取材仕事の帰り道だった。インターチェンジから降りてすぐ。町からけっこう離れている。僕はクルマを運転しないので、自分ひとりで来ることはまずない場所だ。そしてこの道をふたたび通る可能性は低い。

高架橋脚は、ため池から突きだしていた。風はなく、水面がピンと張っている。暗闇の中でカメラを握った。頭上をひっきりなしにクルマが通っているのに、なぜか、とても静かだった。


posted by pictist at 12:15| 都市鑑賞

2019年01月18日

山王市場通商店街の素敵なカーブ

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大阪市西成区、天王寺動物園の近くに山王市場通商店街という商店街がありまして。この場所の写真を知人がインスタグラムにアップしているのを見て以来、ずっと行きたいと思ってたんですが、このたびやっと念願が叶いました(2018年12月)。

私は昔から「ちょっと曲がった道」が好きで、いい感じのちょっと曲がった道を歩くとドキドキしてしまう体質なのですが、この山王市場通商店街のカーブはかなり理想的で、写真で見た瞬間から「ここは絶対に歩きたい!」と思い続けていたのです。

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軽いS字カーブというか。なぜこのカーブにこんなに魅力を感じるのか自分でも分からないけど、ここに立った瞬間、「歩くのがもったいなくて歩きたくない」という矛盾した感情が湧いてくるほど興奮しました。

上掲の反対側から撮った写真がこちら。

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陶然としながら3往復くらいした。

それからもう一つうれしかったのは、この山王市場通商店街が「横丁アーケード」だったこと。本アーケードの途中に、それより少し狭い幅の横道があって、そこもまたアーケードになっているっていうパターンありますよね。あれにも私はなぜかグッとくるのです(厳密に言うと「横丁分岐アーケード」か)。

ちなみにこの広いほうのアーケードは「動物園前商店街」です。

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「一瞬よぎる迷路感」が好きなのかな。

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※エッセイを寄稿した雑誌『生活考察』Vol.6の発刊記念トークイベント「円城塔 x 福永信 x 辻本力トーク」が心斎橋で開催されたので、それを見に行くのが今回の大阪行きの主な目的でした。




posted by pictist at 00:30| 都市鑑賞

2019年01月05日

滝本晃司ライブ@岡山禁酒會舘の記録

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2018年6月23日に岡山禁酒會舘で開催した滝本晃司ライブの記録です。今回も主催の福本、野村、レッドの3人がサポートメンバーとして演奏に参加しました。

私は途中の質問コーナーで聞き手を担当。事前にみなさんからいただいた質問に答えていただきました。例えばこんなの。

【質問】差し支えなければ、千倉の珈琲ショップで使われていた豆の種類を教えてください。珈琲とても美味しかったです。

(註:千葉県で開催された「アート・フリーマーケット・イン・千倉」のこと。滝本さん自ら珈琲を淹れて提供した)

【滝本さんの回答】豆はそこいらの普通の豆。挽きたて・淹れたてを飲めばたいていうまい。豆がなるべく均一になるように挽いたもののほうがいい。大きさにばらつきがないほうが(だからちょっと高いミルを使ったほうが、やはりいい)。お湯は、ちょこちょこ入れる。すると粉がモコモコっと盛り上がってくる。盛り上がらせないとおいしくならない。そうやって粉を「ひらく」のがコツ。

粉をひらく、という独特の表現で、おいしい珈琲の淹れ方を教えてくださいました。こうした言葉の選び方も、なんだか滝本さんらしいですね。

それから福本くんのリクエストで、滝本さんがたま時代からやっている「風船ピアニカ」について教えてもらいました。これはピアニカの吹き口に膨らませた風船を付ける演奏法。風船がしぼみながら送り込む空気で音を出すのです。

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風船は東急ハンズで売っているものだそうです。そして、単に風船をそのまま付けてもうまくいかないので、ジョイントとして、ある健康器具の部品を使っているそう。その健康器具は、もともと知久さんの持ち物だったそうです。

で、実際に風船で演奏してもらう予定だったのですが・・・

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パン!

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と割れてしまいました(笑)。何回か使った後で、古くなってたんでしょうね。しばらく無言で風船を見つめていた滝本さんが一言。

「人が唖然とする姿をみなさん見ましたか」


毎年スタッフで手伝ってくれている池田美穂さんが、後日、ライブの様子を絵に描いてくださいました。池田さんありがとう!

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こちらは私が撮影・編集した記録映像です。リハーサルの様子やオフショットを混ぜてつくってみました。「となりの黒猫」です。




ご来場いただいたみなさま、ありがとうございました。またお会いできる日を楽しみにしています。




posted by pictist at 21:51| イベント